吉田工場長の部屋
(月刊ジャーマンカーズ2005年12月号掲載)


ん?タイヤが変だぞ?

みなさん明けましておめでとうございます。m(_ _)m

お正月休みはどこかへお出かけになりましたか?
この原稿を書いている12月未明、私はどこへ行こうか
全く計画していないんですが、去年はしっかりTDLにしかも
クリスマス真っ只中に行ったもんだからそらもぉ混んでたの何のって。

1アトラクションで2時間待ちってど〜よ!3つ乗ると6時間ってど〜よ!
でパレード見て帰るんっすか(泣)というまぁ大体予想はついていたんだけど
やっぱりネ的な、下手な仕事よりも過酷な「休日」が展開されていたので、
今年は本当のこと言うと家でじっとしていたいところなんですけど、
まぁそぉはいかないでしょうね。

だって私が子供の頃ってやたら混雑してるところって何かワクワクしたもの。
だからそういう思いが我が子に遺伝して今年もそーいうイベントに
駆り出されると思います。大体子供ってオトナが憂鬱になるイベントで
喜びますよね〜。

大雪で交通機関が完全マヒとか、クラスの半分くらいが風邪引いて
学級閉鎖とか、ハイそれは私です(笑)
大雪で騒いだのはもちろん、風邪で高熱出したときも
「これで桃の缶詰が食える」と喜んでいました。

何だか正月っぽさに欠ける話題になってしまいましたが、
そんなこんなで今年もひとつよろしくお願いいたします。

さて今日のお題はE36M3、3,2リットルです。

いや、このS50B32エンジンはめったな事でトラブルは出さないんですが・・・
この車、ある日アイドリングが少しずつ不安定になってきて、
だんだんエンジンの振れがひどくなり、入庫した時はもう昔の
チューニングカーみたいにアイドリングがバラついてきてしまってました。
昔のチューニングカーって中高回転域でなるべくパワーをヒネり出そうと
ヴァルブタイミングを低速犠牲型にしていたんです
(細かく言うと排気上死点時のオーバーラップタイムが
 長い上に作用角が大きめ)
なのでアイドリングが「ぶぉっぶぉっぶぉっ」って感じになっていたんです。

一方このS50B32エンジンはダブルVANOSという
吸排気可変ヴァルブタイミング機構があるのでアイドリングは安定するように
オーバーラップは押さえ気味に、加速時はオーバーラップをぐいっとつける、
高速域はまたもどすという実に芸の細かい事をやっているので
そんな事はありえません、が、この車、まさにそのVANOSが壊れたような症状・・・

いや、まさか、と疑いながらカムカバーを開けていっぺんカムシャフトを
手動で動かしてみると普通に動いてしまうので機械的な故障はないようです。
で、これで直ってくれたりしないかな〜と淡い期待をしながらエンジンスタート、
全く症状が変わらない上に故障メモリー「VANOS」が・・・・

さて、分解しましょうか。

まずは6個のイグニッションコイルを全て外し(写真1)

ヘッドカバーを外します(写真2)
作業の邪魔にならないよう、ファンブレードなんかも外しておきます(写真3)
さていよいよVANOSユニットの取り外しですが、
その前にカムシャフトの初期位置を合わせておかないといけませんから、
専用ツールで位置を確認しながらカムシャフトを廻して調整します(写真4)
調整が済んだらまずインテークカムの調整部分を開けて(写真5)

中のちっちゃいナットを取り外します(写真6 写真7)
このちっちゃいボルトがインテークカムタイミングを調整する
重要なパーツなので慎重に外します。
外れたらVANOSユニットを留めている全てのボルトを取り外し(写真8)
VANOS上のトップブリッジも外します(写真9)
だいぶ本体がよく見えてきましたね(写真10)
そしたらVANOS本体をなるべく浮かせて(写真11)

エグゾースト側の調整シャフトを外します(写真12 写真13)

簡単にやっているように見えますが、結構大変でした(笑)
だってエグゾースト側のVANOS調整シャフトの外周って
VANOS専用オイルポンプが装着されていて邪魔なんだもん。

両方の調整シャフトが物理的に外れたら本体を外します(写真14)
カムスプロケット側を覗くとこんな感じ(写真15)

こんなほっそーいシャフトでカム調整なんか本当に出来るんかいな?
と思われそうですが、回転しながらカム調整ギアをスライドさせる自体は
あまり力がかからないんです、っていうか、あまり動きが渋いと
レスポンス良く動かず、Mの名にふさわしくないエンジンと化してしまうので
軽く作っておく必要があるんです。

BMWロールスロイスGMBHによってアッセンブルされた
リビルトを装着して(写真16)見事このエンジンは復活しました。

M3 3,0リットルの頃はインテークカムだけを調整する
シングルVANOSだったんですが、この3,2からはダブルVANOSになり、
機構が複雑になった分故障のリスクも増えのかなと思いきや、
このVANOSはインテーク側の調整不良が原因で、
メカニズム的に複雑化したのはむしろVANOSオイルポンプを駆動しながら
カムシャフト調整を行うエグゾースト側だったという事を考えると
あんまり納得いかないんですが、私の経験ではこのS50B32に搭載された
ダブルVANOSが壊れたのを見たのはこれで3回目です。

やはり複雑なメカニズムゆえのデリケートさなのでしょうか?
しめて修理代約25万円。
決して安いパーツではないのであまり壊れてほしくありませんね。

さて新春一発目、コアにしてディープな内容のレポートはいかがでしたか?

今年も珍しどころの診断修理レポートをお送りしますので
よろしくお願いします。

それではまた。

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